第18回ポップアスリートカップくら寿司トーナメントの全国ファイナル。「冬の神宮」の準決勝第1試合は、ワンサイドの内容ながら、最後まで緊張が途切れなかった。京都・伊勢田ファイターズは、2年連続で夏の全国出場中と躍進が目覚ましく、今大会では夏の「小学生の甲子園」準Vの強豪も撃破。一方、全選手が200人規模の喜来小(きらい)に通う徳島・喜来キラーズは、普段着の野球で勝ち進んできた。両軍のマッチアップで、ヒーローとグッドルーザーが生まれている。
(写真&文=大久保克哉)
準決勝
◇12月22日 ◇第1試合
伊勢田ファイターズ(京都)
010010=2
000000=0
喜来キラーズ(徳島)
【伊】幸、田見-森田
【喜】富士田煌、下村、矢間勇-山本
二塁打/貝谷、森田、荻田(伊)
【評】大量点を奪えそうで奪えない伊勢田と、大崩れしそうで耐える喜来。双方向の「ガマン比べ」が続いた6イニングだった。1回はともに三番打者が右前打も無得点。2回表、伊勢田は六番・荻田琉聖の左前打と連続の敵失で先制する。なおも無死三塁からスクイズ(ファウル)など攻め立てるが、喜来の先発・富士田煌途が加点を許さない。2回裏は喜来が、六番・下村悠真の左前打とバントで二死二塁とするも、伊勢田の先発・幸大貴主将がやはり踏ん張って無得点に。そして3回から救援した伊勢田の田見哲也は、スローボール主体に打たせて取る投球が冴え、許した走者は四球と内野安打の2人だけだった。攻めては3回、4回と、三塁に走者を置きながら無得点と嫌なムードもあったが、5回に四番・森田颯真の中越え二塁打と六番・荻田の右越え二塁打で、待望の追加点が生まれて2対0に。喜来は4回から右の下村悠真、5回途中から左の矢間勇冴がそれぞれ粘投したが、打線は反撃の糸口をつかめなかった。結果、毎回走者を出して押し気味に試合を進めた伊勢田が、僅差で喜来を振り切って決勝進出を決めた。
●喜来キラーズ・髙井和人監督「ピンチの連続の中で『ワンチャンあるから!』と言い続けてきて、何とか持ち堪えたんですけどね。相手の2番手投手に、うまく打たされてしまいました。それでも最終回に中川(優懼)が内野安打で出ましたし、子どもたちは最後までようがんばりました。神宮の土を踏めたことは人生でも財産になると思いますし、ここまで連れてきてくれたことに感謝しています」
2回表、伊勢田は先頭の荻田が左前打(上)、続く七番・松倉駿(5年)の内野ゴロが相手の連続ミスを誘って先制。なおも無死一、三塁としたが、喜来の右腕・富士田煌(下)が90㎞台半ばの速球で押して追加点を許さず
喜来は2回裏、六番・下村の左前打(上)と七番・森悠晴主将の犠打で二死二塁とする。だが、バント処理も落ち着いていた伊勢田の先発・幸主将(下)が後続を断つ
3回は双方が堅守で無失点に。喜来は三塁手・松永紋侍のゴロ処理で3アウト目を奪い(上)、無死一、三塁からの大ピンチを脱した。伊勢田は正捕手・森田が二盗を阻止(下)
伊勢田は2番手の田見が3回1安打1四球で無失点の快投(上)。5回表は先頭の四番・森田(下)がまずは中越え二塁打
5回表、一死三塁で喜来は左腕の矢間勇がマウンドへ。攻める伊勢田は、幸智之監督が三走の森田と打席の荻田を呼んで言葉を掛ける(上)。再開後、荻田は右越えタイムリーと敵失で一気に三進(下)
遅球を打たされて3回から無安打だった喜来は6回裏、二死から二番・中川が意地の内野安打(上)、続く富士田煌も中前へライナーを放つ。だが、途中出場の伊勢田の中堅手・臼田塁人(5年)がダイレクト捕球で試合終了(下)
―Pickup Hero―
仲間に恩返しの好守&2安打
かいたに・だいき
貝谷大騎
[伊勢田6年/二塁手]
「一人で野球やんな!最後なんやから、楽しくやれ!」
幸智之監督から一喝されたのは、前日の準々決勝のことだった。
二塁を守る貝谷大騎は、序盤のピンチで失点につながるミスを犯してしまう。指揮官は直後にタイムをとって間を入れつつ、他のナインには「カイ(貝谷)を救うために野球しろ!」と熱い檄を飛ばした。打線はこれに応えるように、3回に試合をひっくり返して逃げ切ることに。ところが、いつまでも塞ぎがちな貝谷に対し、堪忍袋の緒が切れかけたのだった。
幸監督は試合後にこう語っている。
「6年生はこの大会で引退なので、負けたら終わり。『とにかく、勝っても負けても自分の納得いく野球をしなさい!』と、みんなにずっと言い続けているんです」
明くる日の準決勝、貝谷は吹っ切れたように攻守で躍動した。初回にチーム初安打を放ち、ベース上からベンチに笑顔を向けた。3回には右越えの二塁打も。守りでは4回二死から、打者3人連続の二ゴロを捌いてすべてアウトに。その3本目は、中前に抜けようかという難しい打球だった。
「きのうの試合はみんなが助けてくれたので、きょうは自分が助ける番だと思って。監督はたまに怖いときもあるけど、すごく良いことを教えてくれます」
三番・二塁の貝谷は、同日の続く決勝でも活躍が続くことになる。
―Good Loser―
ジャスト9人の6年生が全試合先発。有終の銅メダルに指揮官も感無量
きらい
喜来キラーズ
[徳島]
全国的に学童チームが激減する中でも、四国の徳島県は深刻だという。10年前は県下で130チームが活動していたが、現在は90チームを割ってきた。
それでも夏の全日本学童マクドナルド・トーナメントでは、16年ぶり出場の大津西スポーツ少年団が3回戦に進出。そして「冬の神宮」では、喜来キラーズが2勝して銅メダルに輝いた。
在籍する選手33人は全員、松茂町立喜来小の生徒。同校は児童200人程度というから、かなりの割合で入団していることになる。その人気の要因は、父親監督に始まってキャリア16年になる、髙井和人監督の手腕と人となりにあるのだろう。
「お父さんお母さんが楽しめる、また子どもたちが楽しめる組織とチームをつくりたい。そういう信念でやってきています」(同監督)
地元開催の阿波おどりカップや西日本大会には出場実績があるが、より大規模な全国舞台は今回が初めて。それでも選手たちからは過度な気負いや緊張が感じられず、“普段着の野球”ができている印象だった。
「ベンチワークも試合運びも、県予選のときからずっとこんな感じなんです。ただ、6年生9人はこの大会で引退なので、全員スタメンで使うと保護者にも伝えてあります。夏の全国予選(県8強)などは、5年生を入れたベストメンバーで戦いましたけどね」
ガマンの展開が続いた準決勝でも、指揮官は声を荒げることがなかった。落ち着いて戦況を読みつつ、要所で個々を労ったり、短い指示を与えて背中を押してやる姿があった。
四番・捕手の山本は1回戦で先制弾、準決勝では二盗阻止など、攻守の中心として働いた
9人はそれぞれに役割をこなし、起用に応えた。
岡山・一宮ウイングスとの1回戦は、四番・山本千太の中越え先制2ランに始まり、足技も冴えて加点する。投げては富士田煌途、下村悠真、矢間勇冴とつないで勝利。続く静岡・浜松ブラッツ少年野球団との準々決勝は、単打や四死球に足も絡めた攻撃と、1回戦と同じ継投で6回一死まで2対0とリードする。そこから連続四死球で大ピンチとなり、富士田と下村が再登板し、さらに6人目の山本も登板して1点差で逃げ切った。
「ワンチャンあるから、絶対に諦めるなよ!」
指揮官がそう励まし続けた準決勝は、ついに好機は訪れず。それでも、毎回のピンチを2失点に留めたしぶとさは、練習と経験と信頼の賜物だろう。中でも3回無死一、三塁と、4回二死二、三塁のピンチを無失点で脱したのは特筆に値する。継投の投手3枚は、バックにミスが出たときに踏ん張り、投手が四死球や安打を許したときにはバックが堅く守った。
本格派左腕の風間勇は必勝リレーの抑え役を務めてきた
「求めている『楽しさ』とは、そのへんの公園で笑いながらするような野球ではなくて、1つの目標にみんなで向かって一喜一憂する。そういう感じのものです」(髙井監督)
結果も、それに伴う楽しさもキャリアハイ。タテジマのユニフォームに新たに袖を通す、喜来小の児童がまだまだ増えることだろう。